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イラストレーターYukiの雑記

「有休を取ってベルマーク集計」―『PTA、やらなきゃダメですか?』に書かれたPTAの実態と改革がすごい

旧態依然とした組織を変えていくのは至難の業です。しかし、「変えていくこと」ができるかどうかということが、今後の日本の命運を左右することでもあります。

 

前例主義一色だった組織を変えることに成功した、素晴らしい事例に関する本を読むことができました。山本浩資さん著『PTA、やらなきゃダメですか?』です。

 

 

 山本さんは新聞記者として働いてきた男性。あるとき子どもが通う小学校のPTA会長を引き受けることになり、少しずつ改革を実現していきます。本書に書かれた従来のPTAの実態と山本さんの改革の手腕に、何度も驚かされながら読みました。

 

 

改革以前のPTAの実態

従来のPTAでは、以下のような実態があったそうです。

 

  • 「入学したら自動的に加入するもの」とされていて、入会申し込み書などもない。
  • 「子どもが在学中に一度は委員になる」という暗黙のルールがまかり通っている。
  • 総会などで下手に意見を言おうものなら「じゃあ、来年はあなたが委員をやってください」と言われる。
  • 推薦委員が行う次年度の役員の推薦活動が大変、最後まで決まらなかった場合、推薦委員が役員になるということも。

 

唖然としたのが、「子ども1人につき6年間に1回は委員を」というルールのため、子どもが3人、4人いる保護者が毎年のように委員をやるはめになるという実態でした。「委員がやっと終わったと思ったら、また委員をやらないといけない。子どもがたくさんいると損した気分になる」という保護者の声も…。少子化の時代に、こんな状況でいいはずがありません。

 

他にも、保護者のこんな悲痛な声が。

 

  • 有給休暇を取ってベルマークの集計に参加した母「お金を払うからやめさせてほしい」
  • 育休中の母親「雪の中、乳児を背負って古紙回収に参加した」

 

 「限りなく“ブラック”に近い組織」と題された第一章では、このような従来のPTAの実態が詳らかに報告されています。

 

 

PTA加入は義務ではない

山本さんがPTA会長を務めた小学校では、それまで保護者に提出させる「調査票」なるものがあったそうです。これは保護者が毎年記入するもので、「PTA委員・役員の経歴があるかどうか」「委員・役員を引き受けられるかどうか」、そして「特記事項」の欄があり、そこには「委員・役員をできない理由」を書くのだそうです。

 

「できない理由」を「特記」するとは、「原則、みんなやるもの」という考えの表れです。毎年4月の年度初めにはPTA委員・役員決めの保護者懇談会があり、どのクラスもなかなか委員等が決まらないとのこと。そこで、「子どもの在学中に一度は委員を」という暗黙のルールのもと、「やっていない人探し」が始まる…とのことでした。

 

 山本さんは、「PTAは一般的にボランティア活動で成り立っており、ボランティアとは、個人の自由な意思で考え、行動すること」とし、「やっていない人」を探し、「みんなやっているのだから」という同調圧力で参加を促すという状況に疑問を呈します。確かにこれでは、自由な意思で行うボランティアとはかけ離れています。

 

改革を進める山本さんに対し、ベテランママが「子どもが通う学校のことなのだから、親がPTA活動に奉仕するのは義務でしょう」と詰め寄ってきたことがあったそうです。しかし山本さんは、PTAはあくまでも任意加入のボランティア団体だとします。

 

 

文部科学省によると、PTAの設置を義務付ける法律はありません。ボーイスカウトなどと同じで、社会教育法による「社会教育関係団体」に位置づけられており、参加するかしないかは自由に決められるはずなのです。

 

 

 

リーダー・山本さんの人柄が可能にした改革

山本さんは、「子ども、学校、地域が関わるPTA活動は、うまくまわれば社会の潤滑油になる」という考えのもと、関わる全員が幸せになるための改革を進めていきます。そもそも新聞記者として仕事一筋だった彼が、なぜPTA会長を引き受けることに決めたのか、その理由が、とても心に刺さりました。

 

 

新聞記事には「地域社会のつながりが薄れている」が、枕ことばのように使われていました。私自身、そういう原稿を買いたこともありましたが、被災地の取材を通して、ハッと我に返ったのです。

 

「自分は地域につながりを持っているのだろうか」

 

答えはNOでした。地域活動に参加もしていない一介の記者が、「地域社会のつながりが薄れている」と、上から目線の偉そうな記事を書いていいのだろうか――。そこから自問自答が始まりました。

 

 

考えた末に、山本さんは「地域に溶け込むために」会長を引き受けます。このような「自身を問いただせる姿勢」が、改革の成功になくてはならないものだったのだろうと思います。

 

本書には山本さんが変えたこと、始めたことなど改革の一つ一つのステップが綴られており、どれもなるほどと感心させられます。

 

例えばPTA主催のイベントへの参加や手伝いの申し込みをメールでできるようにし、アドレス入力の手間が省けるようにQRコードを用意するなど。「企業ではお客様サービスのために当たり前にやられていること」を実行した、と書かれていますが、そうした変革が必要ということは誰もがわかっていても、実際に行うのには相当の壁が立ちはだかっていたはずです。

 

大成功に終わったイベントの写真をスライドショーにして後日ネット上で限定公開し、保護者たちから大いに喜ばれるなど、少しずつ改革への理解や信頼を得ていく様子には感動してしまいました。

 

 

リーダーの手腕

 山本さんはPTAの改革を実行し、その性質の変化に合わせて名称もPTAからPTOに変更しました。PTOとは何なのかはぜひ本書を読んでいただきたいのですが、ここでも山本さんの改革リーダーとしての手腕が発揮されます。PTOへの移行にあたり、1年目は「お試し期間中!」としたというのです。

 

 

この方式だと、もしボランティア制でうまくいかなかった場合、修正したり、もとに戻したりすることも可能です。

「1年間、お試しPTOでやってみますので、温かく見守ってください」

心配してくれた地域の方々に再度、方針を伝えにまわると、快い返事が得られました。

 

 

おそらく大きな改革と聞いて周囲の人たちが心配したのは、「万が一失敗した場合、もう元には戻れない」ということだったのでしょう。「お試しです」と言うことで「うまくいかなかったときはやり直せばいいのだ」ということが伝えられ、周囲の人々の「変化アレルギー反応」をうまく抑えることができたのではないでしょうか。このような「新しいことを始めるときは、まず試しに、小さな実験というスタンスで」という姿勢はビジネスの世界ではとても大切なことだと思います。

 

 

理解を得るために必要なこと

本書には、山本さんが行ったいくつかの「長年続いてきたことをやめた事例」が出てきます。例えば、無駄の多い会議の進行のしかた、時代遅れな「古紙回収による財源の捻出」などです。これらの改革の進め方が、とても学ぶところの多いものでした。

 

山本さんが変革を提案するたびに、「変えない方がいい」「長年続いてきたことだから、簡単にはやめられない」という声があったと言います。

 

そんなとき山本さんが行ったのは、過去の会長経験者などに相談し、「これはいつから、どういう理由で始まったことなのでしょうか?こういう風に変えると問題があるでしょうか?活動をよりよくするために、変えてみてもいいでしょうか?」と尋ねることでした。

 

「始めた人」に聞くと意外とあっさり「変えてもいいよ」と言わることもあったそうです。それが始まった経緯、なぜそうなったのか、変えるとどうなるのか―それらを調べ、分かりやすく伝え、理解してもらえれば、「前例」の壁は突破できると山本さんは言います。

 

正直、最初にこのような事例を読んだときには、「なぜここまでしないといけないのか」「現状でおかしい点があるのなら、今後の活動にとって一番いいやり方をゼロベースで考えればいいのでは…」と思ってしまいました。

 

でも山本さんはこのようなやり方で、信頼を獲得し、少しずつ改革を実現していったのです。山本さんは、「改革は一人ではできない。仲間が必要だし、細かい根回しなども必要」と書いています。こちらの記事にも書いたことですが、大きな改革を成功させるために必要なのは、「論理的な正しさ」だけでなく「感情的に同意できること(エモーショナリー・アグリーメント)」も重視できる能力なのかもしれないという思いが、本書を読んで強まりました。

 

 

新聞記者としてのスキルを活用

あるときには、委員たちで「海外経験のある友人・知人に世界のPTAについて聞いてみよう」ということになり、聞き取り調査の結果をPTAだよりに掲載したそうです。題して「勝手に自由研究=世界のPTA ~目指せ!世界標準~」

 

PTAだよりにこんな面白そうな見出しの文章を載せて保護者たちを啓発するとは、まさに新聞記者の本分発揮です。こういうのがプロボノ(専門家が、自分の専門性を活かして行うボランティア活動)なのでしょうか。山本さんが率いたPTA改革では、ウェブ関係の仕事をする保護者がウェブサイトを作ってくれるなど、各自の得意分野を活かした貢献が多々あったことが書かれています。こんなPTA活動なら、負担どころか生きがいにすら感じられそうです。

 

 

まとめ

従来のPTAの実態について知ることができ、かと言って暗い話で終わることなく、本当に清々しい読後感を得られる良書でした。現時点で小学校と関わりのある人だけでなく、すべての人に示唆のある本だと思います。特に、

 

  • 現在、PTA活動の問題に苦しめられている人
  • 将来、PTA活動に参加しなければならないときが来ると思うと気が重くなってしまう若者
  • PTAなんて関係ないと思っている男子・男性
  • 退職したら家族以外とのつながりが一切なくなるのではと不安に思う男性
  • 改革を実行したいリーダー

 

これらの方々には、ぜひご一読をおすすめします。